遊びから広がる!特別支援教室のボードゲーム【第10回】子どもが自ら言葉を見つけ、探しにいくきっかけづくり

特別支援教室では、子ども一人ひとりの特性に合わせた学びの工夫が大切です。
ボードゲームは、その遊びの楽しさを通じて多様な学びを自然に育むことができる教材ですが、教材の選定や言葉かけ、役割設定などの工夫が重要です。
この連載では、授業で活用するボードゲームの紹介だけでなく、教員の工夫や実践のポイント、記事を書きながら大切だと感じた「気づき」もあわせてお伝えしていきます。
- 言葉とイメージをつなげるボードゲーム
- 教材(ボードゲーム)の概要
- 学びの要素
- こんな子におすすめ&実践のポイント
- 気づき
1.言葉とイメージをつなげるボードゲーム
今回紹介する『ワードスナイパーキッズ』をプレイしていると、すぐに言葉が出てくる子となかなか言葉が出てこない子がいます。
なぜ、このような違いが生まれるのでしょうか。
本作のようなゲームでは、お題に合った言葉を瞬間的に頭の中で検索し、適切なものを選ぶという高度なプロセスを行っています。
まず、脳は頭の中の「語彙ストック」から状況に合いそうな言葉を取り出します。
次に、その言葉が今の文脈に合うか、相手に伝わるかを判断し、必要に応じて別の言葉に置き換えます。
この一連の流れのなかでは、語彙力・語彙検索力・判断力・情報処理力が同時に働いているのです。
得意な子どもは語彙検索のスピードが速く、言葉を組み合わせてすぐに発話できます。
一方、苦手な子どもは言葉(語彙)そのものは知っていても、検索に時間がかかったり、適切な言葉が浮かぶまでにタイムラグが生じたりするため、会話の中でつまずきやすくなります。
周囲が「言いたいことは分かるのだけれど、表現に少し違和感があるな」と感じる背景には、こうした脳内の検索プロセスが影響しています。
『ワードスナイパーキッズ』は、提示されたお題に合った言葉をすぐに口に出すというシンプルな遊びですが、一連の語彙検索・判断・発話のプロセスを自然に、かつ楽しく体験できるのが大きな魅力です。
2.教材(ボードゲーム)の概要 ※実際の商品説明とは異なる場合があります。
基本情報
名称:ワードスナイパーキッズ【販売元 リゴレ】
人数:2~6人
時間:約10分
対象:低学年~中学年
ゲームの世界観
お題に合う言葉をすばやく見つけて答える、言葉あそびゲームです。
難しい漢字は使わず、子どもが親しみやすい語彙で構成されています。
「考える→見つける→言葉にする」という流れを、テンポよく楽しめるのが特徴です。
遊びながら自然に語彙の世界が広がります。
スナイパーという設定が、言葉を「狙う」という能動的な姿勢を引き出している点も興味深いです。
ルール
① 山札からカードをめくり、場に出します。
② カードに書かれた“ひらがな”と“お題”を確認します。
③ その文字から始まる(または含む)お題に合った言葉を、早い者勝ちで答えます。
④ 正しく言えた人がカードを獲得。多く集めた人の勝ちです。
シンプルなルールで、すぐに遊べます。
「ひらがな」を先に出すか、「お題」を先に出すかで、思考の仕方が少し変わってきます。
間をとると考える時間が増え、余裕が生まれます。
先生がカードをめくる人になり、コントロールするとよいです。
3.学びの要素
日本ボードゲーム教育協会の研究(引用:https://sites.google.com/view/jbgea/report?authuser=0)を参考にしています。
このゲームから得られる学びの要素を、4章で紹介する3つの子どものタイプに対応する形でまとめました。
情報の取り出し
頭の中に蓄積された知識や語彙の中から、必要なものを探し当てる力です。
お題に合う言葉を思い出そうと、知っている単語を総動員する場面で身に付きます。
知識はあってもすぐに取り出せない子にとっては、この力を鍛える絶好の機会になります。
見立てる力
一つの手がかりから、それに当てはまるものを幅広く思い浮かべる力です。
「どうぶつ」「たべもの」など分類を意識しながら、同じ文字でも違う視点から別の答えを見立てていく場面で身に付きます。
一つの正解にとらわれず、多様な角度から物事を捉える柔軟さにもつながります。
セルフマネジメント
勝敗や競争のプレッシャーがある中でも、自分の感情や行動を落ち着いて保つ力です。
早く答えたい気持ちを抑えたり、負けそうな場面でも投げ出さずに取り組み続けたりする場面で身に付きます。
悔しさや焦りといった感情と上手に付き合う経験は、ゲーム以外の集団生活の場面にも生きてきます。
4.こんな子におすすめ&実践のポイント
知識はあるのに言葉がなかなか出てこない子
普段から本や図鑑が大好きで、たくさんの知識を持っている子がいます。
それなのに、授業中の発表や友達との会話になると「あれ」「ええと」が増え、言葉がスムーズに出てこないことがあります。
これはインプット(語彙の蓄積)に対して、アウトプット(脳内からの想起)の回路がまだ未成熟な状態です。
このタイプには、脳内の引き出しを開ける「準備時間(アイドリングタイム)」の確保が効果的です。
カードをめくって即座に競わせるのではなく、まず「お題カード」だけを先に見せます。
「どんなものがあるかな?」と頭を整理させてから、最初の文字をめくるとよいでしょう。
複数の子どもと競わせる状況よりも、まずは教師との1対1の取り組みの中で、ゆっくり想起させていくとよいでしょう。
また、思い浮かばない時の「パス」を認めつつ、教員が言葉を思いついたときに「あ、それ知ってる!」と子どもが反応できたら、「知ってたね!」と認め、脳のネットワークが繋がった感覚を肯定していくアプローチが有効です。
お題から言葉が連想できない子
「今日楽しかったことは?」と聞かれても「べつに」としか返せない子がいます。
作文で「好きな食べ物」というお題が出ても、鉛筆が止まってしまう子もいます。
これは語彙がないのではなく、頭の中の広大な記憶から、お題に合う言葉を自力で検索して想起することが苦手な状態です。
いきなりゲームを始める前に、まず「お題だけ」を提示して脳内の語彙ストックを探る練習をします。
例えば「あまいもの」というお題で、時間制限を設けずに「どちらが多く出せるか」を教員と競争します。
出た言葉はホワイトボード等に書き出し、視覚化することで一時記憶(ワーキングメモリ)が苦手な子をサポートします。
教員より多く出せた実感が自信になり、段階を踏むことで、お題から言葉を検索する作業がスムーズになっていきます。
どうしても言葉が浮かばない時は、タブレット端末で調べてみるのも一つの方法です。
安心してゲームに復帰するための橋渡しとして活用できます(具体的な活用法は5章「気づき」で触れます)。
焦りや勝ち負けでパニックになる子
体育や学級活動のゲーム、給食のおかわりなど、スピードや勝ち負けが絡む場面があります。
負けそうだと感じると、途中で机に伏せて投げ出してしまったり、悔しさから怒り出してパニックになったりすることもあります。
焦りや衝動を和らげるために、ルールのカスタマイズを行います。
競う要素はそのままにして、ゲームの中に「教員対子どもたち」という構図を作ります。
教員側である程度難易度を調整できるため、ピンチな状況を演出することも、子どもたちが有利な状況を作ることも可能です。
子どもたちが互いに連携することで、大人(教員)という大きな存在に勝つことができます。
この構図は自然と子どもたちの一体感を生み、「自分が言えなくて負けた」という落胆から、「みんなでチームに貢献できた」というポジティブな意識への変革をもたらします。
5.気づき
分からないことは一緒に調べる
子どもたちと会話をしていると、流行のキャラクターや人気の動画など、私の知らない言葉がたくさん飛び出します。
そんな時、私は知ったかぶりをせず、「それって何? 先生にも教えて!」と等身大の姿で接し、一緒にタブレット端末で検索するようにしています。
大人がわからないことを素直に認め、子どもから教えを乞う関係性は、子どもたちに大きな安心感と自信を与えます。
自分の好きなものを画面越しに説明する彼らの表情は、とても生き生きとしています。
また、「分からないことはすぐに調べる」という姿勢を教師自らがモデルとして示すことで、私が話した言葉で分からないものがあった時にも、子どもたち自身が自然と端末を開いて調べる主体的な習慣が育ってきました。
画像が助ける語彙獲得
実は私自身、初めて聞く言葉や横文字を、音声や文字だけで理解するのがとても苦手です。しかし、インターネットで画像などの視覚情報を合わせて確認すると、すんなりと頭に入り、言葉の理解がスムーズに進むことを実感しています。
これは4章で紹介した「お題から言葉が連想できない子」にも同じことが言えます。例えば「あまいもの」というお題で言葉に詰まっている時、タブレットで画像検索をすると「あ、これ知ってる!」「これも甘いものなんだ!」と反応が生まれます。言葉の意味を音や文字だけで探るのではなく、画像という視覚的な手がかりを添えることで、言葉と意味がより明確に結びつきやすくなるのです。
私の子供のころは図鑑の該当ページを探すまでに時間を要しましたが、今では一瞬で視覚化できる時代です。ボードゲームで「言葉を探す」楽しさを味わいつつ、日常ではタブレットの視覚情報を補助として使う。このサイクルが安心感を生み、豊かな語彙の獲得を力強く後押ししてくれます。
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