遊びから広がる!特別支援教室のボードゲーム【第7回】感情の動きが育む子どもの成長
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特別支援教室では、子ども一人ひとりの特性に合わせた学びの工夫が大切です。
ボードゲームは、その遊びの楽しさを通じて多様な学びを自然に育むことができる教材ですが、教材の選定や言葉かけ、役割設定などの工夫が重要です。
この連載では、授業で活用するボードゲームの紹介だけでなく、教員の工夫や実践のポイント、記事を書きながら大切だと感じた「気づき」もあわせてお伝えしていきます。
- 勝ち負けがないボードゲームってあるの?
- 教材(ボードゲーム)の概要
- 学びの要素
- こんな子におすすめ&実践のポイント
- 気づき
1.勝ち負けがないボードゲームってあるの?
ボードゲームというと、勝ち負けがあり、戦略や判断力を競うものを思い浮かべる人が多いかもしれません。
しかし、今回紹介する『ヒトトイロ』は、そのどちらとも少し違う立ち位置にあるゲームです。
このゲームは他の特別支援教室で活用していたと紹介されたものです。
「ゲーム=勝敗がつく」と思っていた私にとって、新鮮なボードゲームでした。
このゲームには、はっきりとした勝敗がありません。
その代わりにあるのは、「同じものを見ても、人によってこんなにも感じ方が違う」という気づきと、その違いを面白がる時間です。
色から連想した言葉に対して、全員が同じ色を選ぶこともあれば、まったく違う色が並ぶこともあります。
そこには正解も不正解もなく、「そう感じたんだね」という受け止め合いが生まれます。
他者の考えを“当てる”というより、他者の考えに触れ、自分との違いに気づくこと自体が、このゲームの中心です。
特別支援教室で子どもたちと関わる中で、「うまく説明できない」「言葉が出てこない」「正解を探して固まってしまう」といった場面に出会うことは少なくありません。
ヒトトイロは、そうした子どもたちに対して、言葉よりも先に“選ぶ”“感じる”という入り口を用意してくれるゲームだと感じています。
この記事では、ヒトトイロの基本的な内容だけでなく、「なぜこのゲームが学びになるのか」「どんな子に、どのように活用できるのか」を、実践の視点から整理していきます。
勝つためではなく、違いを安心して出すためのゲームとしてのヒトトイロの魅力を、あらためて見ていきたいと思います。
2.教材(ボードゲーム)の概要 ※実際の商品説明とは異なる場合があります。
基本情報
名称:ヒトトイロ【販売元 COLON ARC】
人数:2~6人
時間:約10~20分
対象:低学年~高学年・中学生
ゲームの世界観
「色」「言葉」「感覚」を手がかりに、他者の感じ方を想像するコミュニケーションゲームです。
同じ色を見ても、人によって連想や受け取り方が違うことを楽しむ世界観が特徴です。
6色のカードには、それぞれ異なるキャラクターが描かれています。
ヒトトイロのキャラクターカードでは、人物の見た目と色の組み合わせが、一般的なイメージから少しずらして表現されているように感じました。
このさりげない違和感が、「この人だからこの色」という思い込みを自然に手放すきっかけになります。
色は性別や役割を示す記号ではなく、感じ方や印象を表すものなのだと、遊びの中で静かに伝えてくれます。
さらに、色の名称がひらがなと英語の両方で表記されている点も、さまざまな人が楽しめる工夫の一つです。
こうした配慮によって、「決められた見方」にとらわれず、自分の感じ方を大切にしてよいことが自然と伝わります。
説明をしなくても、違いをそのまま受け止め合える空気が生まれる点は、ヒトトイロならではの魅力です。
ヒトトイロで色カードを出す際に、考えることは「友達と色を揃える」「自分が思った色を出す」の大きく分けて2つです。
どちらに重きを置いて指導するかはとても重要なことです。

ルール
基本ルールのままだと学年や子供たちの課題によっては難易度が高くなってしまうので、特別支援教室ではルールを変えています。
〈特別支援教室の基本ルール〉
1.順番にお題カードを決める
お題カードを作り、その中から選ぶ。付属のお題カードは子どもたちが知っている共通のものが少ないのでお題を決めるだけで時間がかかってしまいます。
2. 色カードを選ぶ
お題が決まったら、各プレイヤーはそのお題から連想される色カードを1枚選び、伏せて自分の前に出します。
3. 色カードを公開し、みんなで確認
全員の色カードを同時にオープンします。みんなが同じ色を出せていれば、そのラウンドは成功です。
4. これを人数分繰り返す
5. ゲームの終了と結果
ラウンド終了後、全ラウンドで全員が同じ色を出していればミッション成功。違っているラウンドがあっても、理由を話し合いながら楽しむことができます。

3.学びの要素
日本ボードゲーム教育協会の研究(引用:https://sites.google.com/view/jbgea/report?authuser=0)を参考にしています。
このゲームから得られる学びの要素と育つ場面をまとめました。
抽象化:色がもつ雰囲気や印象を言葉としてまとめて表現する場面。
具体化:漠然としたイメージを「明るい」「さびしい」などの言葉に落とす場面。
非言語力:言葉にならない感覚を色という視覚情報で受け取る場面。
共感力:他者が選んだ色や理由を聞き、その感じ方に耳を傾ける場面。
他者意識:自分と相手の受け取り方の違いに気付く場面。
対話力:なぜその色を選んだのかを説明し合う場面。
評価する力:複数の表現や選択を比べ、納得感をもって受け止める場面。
メタ認知力:自分の感じ方の癖や傾向を振り返る場面。
4.こんな子におすすめ&実践のポイント
友達の考えを想像するのが難しい子

「友達と色をそろえる」活動が苦手な子の中には、相手がどのように考えているのかを想像すること自体が難しい場合があります。
例えば、「晴れの色といえば?」というお題が出たとき、どんな色を思い浮かべるでしょうか。
太陽の色から赤・黄色・オレンジを思い浮かべる人もいれば、空の色から青や水色を思い浮かべる人もいます。
このように、同じ言葉からでも多様なイメージが生まれます。
特別支援教室に通う子どもたちが、言葉だけを手がかりに一つの色にそろえることは、決して簡単ではありません。
ここで大切になるのは、「正解の色を当てること」ではなく、友達の言葉に耳を傾け、その背景を想像しようとすることです。
教員も一緒に参加し、色を直接直したり答えを言わせたりするのではなく、「その色は、何の色?」「どうしてそう思ったの?」と問いかけていくとよいでしょう。
例えば、子どもが「太陽の色」と答えた場合には、「何時くらいの太陽かな?」「夏の太陽?冬の太陽?」と質問を重ねていくことで、イメージが少しずつ具体化され、自然と色の幅が絞られていきます。
みんなで考えをすり合わせ、色がそろったときには、大きな達成感を共有できます。
直接色を聞き合っていないのに気持ちが通じ合った経験は、「エスパーになったみたい!」という感覚を生み、相手を想像する楽しさへとつながっていきます。
相手の考えを受け止めることが苦手な子

相手の考えを受け止めることが苦手な子の場合、友達の意見を聞いてもなかなか納得できず、「ぼくはこう思うから、この色!」と自分の考えを強く主張し、結果として色がそろわない場面も見られます。
そのようなときでも、無理に合わせさせたり、責めたりする必要はありません。
まずはその子の考えを尊重し、安心して発言できる場を保つことが大切です。
その子の番になったときに、周囲の子どもたちが話をよく聞き、「なるほど、そういう考えなんだね」「じゃあ、それに近い色ってどれかな?」と歩み寄る姿が見られるようになると、少しずつ考えの硬さがほぐれていきます。
ヒトトイロは、相手に合わせることを強制するゲームではありません。
相手の考えに触れ、受け止められる経験を重ねることで、「自分の考えも大切にしていい」「友達の考えも聞いてみよう」という気持ちが育っていきます。
多様な気持ちに気づき始めた子

「自分が思った色を出す」活動では、同じ言葉や場面でも、人によって感じ方が異なることに自然と気づくことができます。
私はヒトトイロを使うとき、気持ちを色でたずねるお題をよく取り入れています。
「今の気もちの色は?」「うれしいときの気もちの色は?」「悲しいときの気もちの色は?」といったお題は、答えに正解がなく、理由を聞きやすいのが特徴です。
例えば、「今の気もちの色は?」というお題では、「今日の給食が楽しみだから黄色!」「調子が悪いから紫」「うまくできなかったから水色」など、さまざまな答えが出てきます。
ここで興味深いのは、同じ色でも意味づけがまったく異なるという点です。
水色を「悲しい色」と感じる子もいれば、「落ち着く色」「さっぱりした気持ち」と捉える子もいます。
こうしたやり取りを通して、子どもたちは「色=一つの意味」ではなく、人によって受け取り方が違うことに気づいていきます。
「自分が思った色を出す」活動には、正解・不正解がありません。
だからこそ、間違える不安なく、自分の感じたことをそのまま表現することができます。
また、友達の理由を聞くことで、「そういう考え方もあるんだ」「自分とは違う感じ方があるんだ」と、相手の気持ちに目を向けるきっかけにもなります。
ヒトトイロは、色をそろえることだけでなく、自分の気持ちを言葉にし、他者の感じ方を知るための教材としても活用できます。
こうした経験の積み重ねが、感情理解や自己表現の幅を少しずつ広げていくのだと感じています。
5.気づき
子どもたちの関係をつなぐ、教員の問いかけ
教員が活動に参加することで、活動そのものが活性化する場面は多く見られます。
子どもたちと同じ立場で参加していたとしても、教員の存在は良くも悪くも大きな影響力を持っています。
だからこそ、ゲームに参加する際には、どこで、どのような言葉を発するかが重要だと感じています。
ヒトトイロを子どもたちだけで進めると、「色をそろえなかった子」に対して責める言葉が生まれてしまうことがあります。
目的である「みんなで色をそろえること」が、いつの間にか「合わない人を指摘すること」にすり替わってしまうのです。
そうした場面で教員が果たす役割は、色をそろえるため、つまり目的を達成するために本当に必要な言葉や考え方は何なのかを示し、子どもたち自身に気づかせることです。
「どうしたら次はそろえられそうかな」「今、相手はどんなことを考えていると思う?」といった発問は、責める視点から、考え合う視点へと集団の空気を変えていきます。
通常の学級において担任の「発問」が学びの質を左右するように、小集団活動においても発問はとても重要です。
すべてに口を出すのではなく、精選された問いを、必要な場面で投げかけること。
その積み重ねが、子どもたちの関わり方や言葉の選び方を育てていくのだと感じています。
心の揺れが子どもの成長を促す
ヒトトイロは、みんなで色をそろえる活動の場面で、強い緊張感が生まれます。
「友達は何を考えているんだろう」「一人だけ違ってしまったらどうしよう」など、子どもたちは頭の中でさまざまな思いを巡らせながら参加しています。
だからこそ、全員で色をそろえられたときの成功体験は、達成感が非常に大きく、喜びもひとしおです。
これまでなかなか意見が合わなかった小集団が、初めて同じ色を選べた瞬間には、「できた」「通じ合えた」という感覚を、子どもたちが強く実感します。
その喜びを仲間と共有できたという経験は、子ども同士の関係づくりにもつながっていくでしょう。
一方で、「自分が思った色を出す」という活動には、先ほどのような緊張感はほとんどありません。
私は、あえて前者の「色をそろえる活動」を行った後に、後者の「自分の色を出す活動」を取り入れています。
そうすると、張り詰めていた空気がふっと和らぎ、子どもたちの表情にも安堵の様子が見られます。
そのタイミングで、「今、どんな気持ち?」と尋ねると、子どもたちは自分の心の変化に少しずつ目を向け始めます。
人と意見を合わせることには、不安や緊張、我慢といった感情が伴う一方で、うまくいったときには安心感や喜びが生まれます。
このような心の揺れが子どもたちを成長させていくと感じています。
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