遊びから広がる!特別支援教室のボードゲーム【第9回】得意から広がる学び

特別支援教室では、子ども一人ひとりの特性に合わせた学びの工夫が大切です。
ボードゲームは、その遊びの楽しさを通じて多様な学びを自然に育むことができる教材ですが、教材の選定や言葉かけ、役割設定などの工夫が重要です。
この連載では、授業で活用するボードゲームの紹介だけでなく、教員の工夫や実践のポイント、記事を書きながら大切だと感じた「気づき」もあわせてお伝えしていきます。
- ボードゲームで知る、自分のこと
- 教材(ボードゲーム)の概要
- 学びの要素
- こんな子におすすめ&実践のポイント
- 気づき
1.ボードゲームで知る、自分のこと
小学校の6年間の成長は本当にめざましく、小学校教員として関わっていると、「もう敵わないな」と感じる場面がたくさんあります。
例えば、高学年の子どもたちとの短距離走。
私自身、決して足が遅い方ではありませんが、高学年児童のスピードには思わず圧倒されてしまいます。
また、子どもたちとボードゲームをしていても、最初は私がやり方を教えていたはずなのに、いつの間にか子どもたちの方がずっと上手になっている、ということも少なくありません。
今回紹介する『ツインイット!』も、実際に取り組んでみると、大人よりも子どもの方が早くカードを取れる場面が多く見られます。
私はこのゲームで負けたとき、その子が本来もっている力や感覚の鋭さを強く感じます。
ゲームを通して見えてくる「得意」や「強さ」は、その子にとって大切な個性であり、学びを支える大きな手がかりになるのだと感じています。
特に特別支援教室では、こうした力が日常の学習では見えにくいこともあり、ボードゲームはその子の新たな一面に気づくきっかけになります。
ボードゲームは、子どもの「得意」や「強さ」を可視化してくれる教材です。
勝敗の結果の裏側にある力に目を向けたとき、その子の学びを支える手がかりが見えてきます。
2.教材(ボードゲーム)の概要 ※実際の商品説明とは異なる場合があります。
基本情報
名称:ツインイット!(Twin It)【販売元 ホビージャパン】
人数:2~6人
時間:約10~15分
対象:低学年~高学年・中学生
©Interludo - Cocktail Games
ゲームの世界観
『ツインイット!』は、色や模様の異なるカードの中から「まったく同じ2枚」を素早く見つける、反射神経型のカードゲームです。
カードにはドブルやニムト、チェスなどのボードゲームを思わせる模様が描かれており、直感的に理解しやすいデザインになっています。
ボードゲームを知っている子は、そのカードがでると「ドブルくんだ!」と喜びます。
カラフルな見た目が場の雰囲気を一気に盛り上げ、短時間で高い集中力を引き出す体験が特徴です。
ルール
1.準備とカードを出す流れ
両面に絵柄のあるカードを人数分に均等に分け、各自1山を自分の前に置きます。
スタートプレイヤーから順に、山札の一番上のカードを1枚ずつめくり、テーブル中央に並べていきます。
2.同じ絵柄を見つけたとき
場に同じ絵柄のカードが2枚出たら、いち早くそれぞれのカードに指を置いた人が、そのペアを獲得します。
獲得したセットは、全員から見えるよう自分の前に置きます。早い者勝ちです。
3. 3枚目と強奪ルール・勝利条件
絵柄は2枚だけでなく、3枚あるものや1枚だけのものもあります。
3枚目が場に出たとき、すでに他の人がその絵柄のセットを持っていれば、場のカードとそのセットを指さすことで強奪できます。
最初に5セット集めた人の勝ちです。

3.学びの要素
日本ボードゲーム教育協会の研究(引用:https://sites.google.com/view/jbgea/report?authuser=0)を参考にしています。
このゲームから得られる学びの要素と育つ場面をまとめました。
セルフマネジメント
自分の状態や行動を自分でコントロールする力です。
「今日は何枚先取にしよう」「もう少し続けてみよう」と自分でペースを調整する場面で身に付きます。
アンガーマネジメント
感情、特に怒りや悔しさをうまく扱う力です。
負けた瞬間の気持ちを抑えたり、友達の切り替え方を見て「自分もやってみよう」と思えるようになる場面で身に付きます。
特徴を捉える力
ものごとの共通点や違いを見つけ、正確に判断する力です。
似ているカードを見比べながら「どこが同じで、どこが違うのか」を確かめる場面で身に付きます。
漢字の細かな違いや文章の誤字に気づく力にもつながります。
4.こんな子におすすめ&実践のポイント
集中が続きにくい子

『ツインイット!』を終えた後は、私自身も頭がヒートアップしているのを実感します。
子どもたちには「頭から湯気が出ているみたい」と伝えることもあります。
大人でもそれほどの集中力が必要なゲームです。
しかし、ルールがシンプルであるため、のめり込みやすい点が魅力で、集中力が長く続かない子でも取り組みやすい設計になっています。
集中が途切れてしまう原因の一つに、「カードを取られてしまうこと」が挙げられます。
勝敗の受け入れが難しい子は、友達にカードを取られると集中力が切れてしまうことがあります。
そうした場合は、教員とペアを組んでじっくり取り組み、少しずつ集中できる時間を延ばしていくと効果的です。
また、ルールを工夫して、1回目は5枚先取、2回目は10枚先取と段階的に増やすことで、集中力と自信を養うことができます。
私は時に全てのカードを使ってゲームを行うこともあります。
私の方が先に集中力を切らしてしまうこともあるくらい子どもたちがのめり込み、集中力を使います。
子どもたちの様子に応じて、柔軟にルールを調整すると良いでしょう。
負けると感情が荒れやすい子

このゲームは1回のプレイが短時間で終わるため、勝つ体験や負ける体験を繰り返しながら学ぶことができます。
負けると落ち込みやすい子は、友達の様子や教員の声かけを通して、気持ちの切り替え方を少しずつ身に付けることができます。
たとえば、「〇〇さんは負けてしまったけど、どんな顔をしている?」と考えるだけでも、負けたときの気持ちの整理につながり、「友達も切り替えているから、自分もやってみよう」と意欲が芽生えることがあります。
勝つことにこだわりすぎる子や、挑戦する意欲があまりない子には、勝敗よりも行動や思考のプロセスに注目させることが大切です。
「今どこを見ていたか」「次はどう探すか」といった視点に意識を向けることで、結果だけでなく考え方や工夫の部分に目が向くようになります。
友達の行動に気づきにくい子や、観察力を育てたい子には、カードを取っている子のやり方や工夫を意識させる声かけが効果的です。
「〇〇さんはどうやってそんなに早く取れたの?」と問いかけると、実際に「カードをじっと見ていた」「全体を見て覚えた」「山札も見ていた」といった具体的な工夫を学ぶことができます。
視覚情報の整理が苦手な子

『ツインイット!』のカードは、橙色や黄色、水色、茶色などの落ち着いた色合いで構成されています。
絵柄は一見よく似たものが多く、見間違えてしまうことも少なくありません。
そのため、このゲームでは「細かい違いを見分ける力」が求められます。
日常生活の中では見過ごしてしまいがちな差異にも、自然と注意を向ける練習になります。
似ているけれど微妙に異なる模様のペアを探すことは、単に速さを競う活動ではありません。
全体を瞬時に捉える力と、細部を丁寧に見比べる力の両方を働かせながら、「どこが同じで、どこが違うのか」を判断することが必要になります。
違いに気づくためには、「なんとなく同じ」と判断するのではなく、「どこまで同じなのか」を確かめる視点が欠かせません。
この視点は、漢字の細かな違いに気づく力や、文章中の誤字に気づく力にもつながっていきます。
『ツインイット!』は、楽しみながら視覚情報を整理し、細部に注意を向ける力を育てることができる教材です。
日常の学習場面では見えにくい「見分ける力」や「気づく力」が、ゲームの中では自然に表れます。
その瞬間を見逃さず、「どこを見ていたのか」を言葉にしていくことで、学びはさらに深まっていきます。
5.気づき
その人らしさが表れる瞬間
私は友人と自宅でボードゲームをする機会があり、その中で新しいボードゲームの情報や活用法を学んでいます。
(ほかの友人は純粋に楽しんでいるのだと思いますが、私はつい教材として見てしまいます。)
ゲームをしながら、「Aさんはあのゲームが得意だから、このゲームも得意なタイプだな」と自然に考えている自分がいます。
実際にプレイしてみると、瞬時の判断が求められるゲームで強い人、じっくり戦略を練るゲームで力を発揮する人など、大人でも得意・不得意がはっきりと表れます。
ゲームが変わると“勝つ人”も変わります。
大人でさえこれだけ違いがあるのですから、子どもに得意・苦手があるのは当然のことです。
ボードゲームは、その人の「得意」をはっきりと映し出し、その違いをはっきりと、そして前向きに見せてくれる教材です。
強みが見つかると、学びは変わる
強みの裏には、弱みもあります。
しかし、弱みは強みによって補うことができるのではないかと、私は考えています。
私は、言葉の理解や聞いて理解することがあまり得意ではありません。
そのため、学生時代の一方向的な講義では、内容についていくのに苦労しました。
教員になり、パソコンが身近な存在になってから、学ぶことが格段に楽になりました。
幼いころから機械が好きだった私は、パソコンを使って検索やタイピングを活用し、自分に合った方法で情報を整理できるようになったのです。
最近では生成AIも活用し、分からない言葉をその場で確かめたり、自分の考えを整理したりしながら、能動的に学べるようになりました。
弱みがなくなったわけではありません。
ただ、強みを使う方法を見つけただけです。
子どもたちも同じです。
「できない」と見える姿の裏には、まだ活かされていない強みがあるのかもしれません。
強みを手がかりにすれば、弱みを支える方法が見えてくることがあります。
弱みをなくすことよりも、強みをどう使うか。
その視点が、子どもの見え方を変えてくれるのではないかと感じています。
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