遊びから広がる!特別支援教室のボードゲーム【第2回】「先生にも苦手がある」から始まる学び

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日本標準

特別支援教室では、子ども一人ひとりの特性に合わせた学びの工夫が大切です。

ボードゲームは、その遊びの楽しさを通じて多様な学びを自然に育むことができる教材ですが、教材の選定や言葉かけ、役割設定などの工夫が重要です。

この連載では、授業で活用するボードゲームの紹介だけでなく、教員の工夫や実践のポイント、記事を書きながら大切だと感じた「気づき」もあわせてお伝えしていきます。

1.なぜボードゲームに興味をもった?

特別支援教室の教員をする前から、ボードゲームには興味があり、趣味としてよく遊んでいました。
きっかけは、通常の学級の担任をしていたときに、学年を組んでいた教員仲間がボードゲーム好きだったことです。
一緒に遊ぶうちに、自然とその魅力に引き込まれていきました。
その教員仲間のお子さんも加わり、自宅で「ボードゲーム会」を開くこともありました。
そのときにわかったことが4つあります。

① 子どもが長い時間集中して取り組める
昼前から夕飯時まで、続けて取り組んでいました。

② 大人が子どもに負ける
記憶系のゲームは苦手で負けました。

③ 子どもが生き生きとしている
ゲームの最中はもちろん、ルール説明の時も目が輝いていました。

④ 協力することの楽しさを共有できる
勝敗がつくものだけでなく、協力して達成するゲームがたくさんありました。

いつの間にかボードゲームの世界にハマってしまい、個人的にボードゲームを購入したり、仲間とボードゲーム会をしたりするようになっていました。
特別支援教室でボードゲームを取り扱って授業を展開していく中で、ボードゲームの有効性を感じることが増え、教材研究を続けています。

今回は新しい教材を探していた中で、公私ともにハマった「ナナ」を紹介します。

2.教材(ボードゲーム)の概要 ※実際の商品説明とは異なる場合があります。

基本情報

名称:ナナ 【販売元 Mob+(モブプラス)】
人数:2~5人
時間:約15分
対象:中学年~高学年・中学生


ゲームの世界観

「ナナ」はトランプゲーム「神経衰弱」のようなカードゲームです。
手札や場札、他者の手札を一部公開しながら同じ数字を3枚揃えることを目指す読み合い・記憶型カードゲームです。
カードには12種類の動物の絵が描かれており、その絵がどれもかわいく、興味が湧きます。
とくにゲームにストーリーはありませんが、ゲームタイトルのナナに合わせて勝つ条件が設定されています。
7のカードだけ数字が金色なので、「7」という数字に着目して遊べます。

ルール

  • 各プレイヤーに手札を配り、残りを「場札」としてテーブル中央に裏向きで1枚ずつめくれるように配置する。手札は数字順に並べる。
  • 手番では、以下のいずれかのアクションを行う。
    ①自分または他のプレイヤーの手札の「最大のカード」か「最小のカード」を1枚公開する。
    ②場札からカードを1枚めくって公開する。
  • チャレンジ成功(同じ数字を3枚連続公開)なら、その3枚を獲得する。失敗した場合は公開カードを元の場所に戻す。
  • 勝利条件は以下のいずれかさせる
    ②チャレンジ成功した2組の数字の足し引きが7になる
    ③「7」のチャレンジを成功させる

ルールの言葉だけを読むと複雑そうに感じますが、やってみると意外と簡単です。

3.学びの要素

日本ボードゲーム教育協会の研究(引用:https://sites.google.com/view/jbgea/report?authuser=0)を参考にしています。
このゲームから得られる学びの要素と育つ場面をまとめました。

記憶力:めくられたカードの位置と数字を覚え、同じ数字のカードを探す場面
メタ認知力:相手がどの数字を覚えているか推測し、裏をかく選択をする場面
判断力:覚えている数字を出すか、新たにめくるかを瞬時に決める場面
情報処理力:他のプレイヤーがめくったカードの数字を見逃さず把握する場面
意思決定力:確信がもてないカードをめくるか、安全策を取るかを選ぶ場面
スピード力:予想が外れた時に、素早く作戦を切り替え対応する場面
戦略思考:序盤に差がついても、記憶を活かして終盤で追い上げを狙う場面
情報処理力:場の情報と自分の記憶を照合し、正確に判断材料を整理する場面

4.こんな子におすすめ&実践のポイント

推理することが苦手な子



「推理が苦手」という子どもは、情報を整理したり、他者の意図を想像したりすることに負担を感じている場合があります。
相手の持っている数カードを当てるボードゲームは他にも「アルゴ」「ドメモ」などがあげられます。
こちらも優れたボードゲームなので、よく活用していますが、「ナナ」はこれらよりも覚えておく数が一番大きい数・小さい数に特化していて限定的です。

推理が苦手な子にとって、正解を当てることよりも「自分なりに考えた」ことが何より大切です。
教員とペアで取り組むことで、推理のプロセスを言語化しやすいです。
失敗しても「いいところに気づいたね」とプロセスを認めることで、考えることへの安心感と自信を育てることができます。

「ナナ」は、考えることを怖がる子に「推理ってちょっと楽しいかも」と思わせてくれる教材です。
ペアで自信を付けたところで、グループでの活動をしていくと楽しんで参加できるようになります。

読み合いや他者の意図を考えるのが苦手な子 



神経衰弱で私に勝っていた子が、「ナナ」では負けることが多々あります。
子どもはなぜ負けるのか不思議そうにしますが、このゲームで勝つためには記憶力だけではなく、読み合いが大切です。
その子は記憶だけを頼りに、プレイしていました。
一方で、私は相手の言動や表情を見て、どんなカードをもっているのか推理していきます。
教員が推理していくプロセスを言語化して呟くとよいです。

「〇〇さんが小さい数を聞いてきたってことは1を持っているな。」
「場札をめくったということは、1や12は持ってないのかな。」
「〇〇さんはカードを見て驚いたから、あの数は持っているんだろうな。」

など、他者の言動から持ち札を推理していく方法を教えるのではなく、呟くと自然と意識し始めます。
このゲームを通して、他者の言動の意味を知っていくと、自然と他者を意識して行動することの有用性に気付いていきます。
教員と子どもの2名で取り組んだ場合、わざと大きなリアクションをとったり、心の声を漏らしたりして、子どもに意識させることも有効です。

すぐに表情や態度に出してしまう子 



「あっ!」と大きな声を出し、狙っていた数がばれてしまう、誘導する言葉掛けにすぐにのってしまうなど、ポーカーフェイスができない子が多くいます。
通常の学級では、勝手に発言してしまったり、気持ちを態度で表してしまったりすることが問題行動と見なされることがあります。
自分の番までは言いたいことはぐっと我慢すること、相手にばれないように平常心を保つことが必要となります。
こちらの場合も教員が推理していくプロセスを言語化して呟くとよいです。

「〇〇さん、今嬉しそうな顔したよね。ということは、この数を持っているよね。」
「〇〇さん、1のカード持っている?あっ、今、ぴくって反応したね。」

などと伝え、分かりやすい言動をしていることに気付かせます。これを繰り返していくとポーカーフェイスを心がけるようになります。
自分で感情のコントロールができるようになると、駆け引きの際にこの反応を利用して騙してくるようになります。

5.気づき

誰にでも苦手なことはある

私はトランプの神経衰弱がとても苦手です。
特別支援教室で神経衰弱をしても、子どもに勝つことはほとんどありません。
ボードゲームでは、子どもが大人に勝つということは往々にしてあるのです。
大人が子どもに負ける要因の1つとして、特性の違いが考えられます。
神経衰弱、歴史の年号、誕生日、電話番号、車のナンバー…、とにかく私は数字の記憶ができません。短期記憶から長期記憶へ結びつけるための関連づけが苦手なのだと感じています。
私が「先生の苦手なこと」を伝えると、子どもたちは「ほんとに!?」と嬉しそうに反応します。
先生にもできないことがあるという事実は、“失敗してもいいんだ”と感じられる子どもたちの学びの安全基地になります。
互いの違いを受け入れ合う関係につながるのです。

記憶の仕方はそれぞれ違う

幼いころ、記憶を頼りにスーパーマーケットから自宅までひとりで歩いて帰ってしまい、親に驚かれた経験があります。
私は、会話や行動を動画のような視覚イメージとして記憶しています。
そのため「ナナ」においても、数字そのものではなく、誰がどのような表情で数字カードを出したかという映像的な記憶を使っています。
これを人に話すと驚かれることが多いですが、私は生きていく中でこのような記憶方法を身につけました。
記憶の仕方は人それぞれ異なりますが、どんな記憶の仕方でも、その子どもにとっての“力”になり得ます。
特別支援教室では、自分の得意なことを見つけ、苦手なことを得意なことで補う方法を知ることが大切です。
支援とは、その力に気づき、学びにつなげていくことだと実感しています。

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