ウィーン・飛ぶ教室///第8回:ウィーン散歩②―多様性と記憶―

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日本標準

 前回に続き、ウィーンの街をもう少し歩いてみることにしましょう。

ウィーンの信号

3枚の写真を見てください。青信号です。この3枚の写真を比べて、違いがわかるでしょうか。

信号機で有名なのは、ドイツはベルリンのアンペルマンですが、わたしとしてはウィーンの信号機もおすすめです。

 

この信号機は、ウィーンの観光客が多い通りに限定されてはいるものの、市内120か所に設置されています。信号機には2人組が描かれています。よく見てください。

1つ目は、ワンピースを着たような2人組。2つ目は、ワンピースと細い脚の2人組、3つ目は、細い脚の2人組が見えます。

もうお分かりですね。これは、レズビアンカップル、ヘテロカップル(異性愛カップル)、ゲイカップルを示しています。

この信号機は、2015年に登場しました。観光客が多い場所に設置することで、ウィーンのLGBTQに対する姿勢を示しています。個人的には、ヘテロカップルのスカートをはいている女性のほうが、男性の手を引っ張っているように見えるのもいいなと思っています。

もちろん、新しい信号機は、本来の役割である交通安全の向上にも役立っています。歩行者は、信号機のシンボルではなく、色を認識するそうです。そこでこの新しいシンボルの発行面を従来よりも40%広くしました。

1人よりも2人のほうが発光面が大きくなります。すると、この新しい信号機を設置した横断歩道では、信号無視が18.22%減少したという調査結果が出ています。

https://www.wien.gv.at/verkehr/ampeln/neue-ampelsymbole.html

グレタ・トゥーンベリ、ココ・シャネル、ミシェル・オバマなど女性の伝記ばかりが並べられた書店の棚。

 

写真は、ある本屋さんのレイアウトです。児童書のコーナーに、女性ばかりの伝記本のシリーズがレイアウトされています。

クリスマス時期のドラッグストアのテレビコマーシャルは、女性同士のカップル、男性同士のカップル、アジア人と黒人のヘテロカップル、高齢者のヘテロカップルなどがともに過ごすというものでした。カップルは多様だけど、クリスマスは一様に祝うんだと少し皮肉に思ったものですが…。

しかしながら、現実はそう多様でもありません。2月のカーニバル(謝肉祭)の際には、学校でも幼稚園でも、1日だけ仮装してきてもよいことになったのですが、女の子はほぼ全員プリンセスに変身しました。ピンクにフリルです。男の子は動物だったり、警察だったり、ローマ兵だったり…。

 

テレビアニメの多様性

家でも多様性を感じる場面があります。例えば、子どもたちが見るテレビアニメです。

日本で代表的かつ伝統的なものとしては、「サザエさん」、「ちびまる子ちゃん」、「ドラえもん」、「クレヨンしんちゃん」などでしょうか。

これらに共通しているのは、主要な登場人物がほとんど人間で、しかも日本人であるということです(ドラえもんやドラミちゃんは除く)。

すべてを見たわけではありませんが、こちらのアニメは、まず、幼児あるいは低学年児童対象のものであれば、動物のキャラクターが多いことが特徴的です。

犬、豚、熊、ネズミ、猫、リス、パンダなどなど。電車や車の場合もあります(「機関車トーマス」は日本でも有名です)。

動物の場合であれば、複数の種類の動物が出てくることも共通しています。日本でも昔は「トムとジェリー」などが放映されていました。

特定の言語をしゃべらない動物のアニメもあります。日本でも、「ピングー」や「ひつじのショーン」などが放映されていました。

もう少し上の年齢段階を対象にしたアニメであれば、学校が舞台となるわけですが、必ず、肌、髪、眼の色が異なるキャラクターが登場することが一般的です。

主人公も、例えば、日本人とフランス人のハーフという設定など多様性に配慮したキャラクター設定になっています。

これらのアニメは、欧米を中心に制作されており、人種の多様性に配慮する必要がある国によるものであることがわかります。

そうした視点から見れば、実は、「アンパンマン」は数少ない日本の多様性があるアニメだということができます。ただ、アンパンやメロンパンは日本の食文化に特有なものなので、判断は難しいところです。

 

記憶の真鍮プレート

ウィーンを歩けば歴史的なものを本当にたくさん目にすることができます。というよりも、歴史的なものを見ないで歩くことはできないといったほうが正しいでしょう。

例えば、ベートーヴェンの家と呼ばれるところは結構な数があります。彼は引越し魔だったからです。

さて、次の写真を見てください。この真鍮プレートが何かお分かりになるでしょうか。

これは、ナチス時代に避難し、殺害されたユダヤ人を記念するためのものです。

名前、生年月日、死亡年月日が記されています。「記憶の石」(Erinnerung der Steine)という協会が行っている事業です。https://steinedererinnerung.net/

このプレートは、ウィーン市内で見ることができます。その数は1600枚以上(2018年調べ)。その9割が地面におかれています。写真はそのうちの1枚です。とても豪華なアパートメントの入り口近くにこれが埋め込まれています。

「記憶の石」協会のデーターベースには66000人が登録されているそうです。それらは単なる数字ですが、真鍮プレートによって名前と命を吹き込む作業だといえるでしょう。と同時に、オーストリアがナチス時代に被害者ではなく、加害者でもあったという記憶を街中で確認できるプレートなのです。

子どもと一緒に歩いていると、目線が下に向くので、わたしは毎日このプレートを見ています。その瞬間、プレートの場所に生きていた人のことを思います。

なお、ドイツにも「躓きの石」というものがあります。ウィーンの「記憶の石」よりも前から設置されているそうです。

 

日本では、こうした公共の場所で、環境や多様性や歴史を再考するものに出会うことはできるでしょうか。帰国したら、授業の中で学生たちと探してみようと思っています。

 

伊藤実歩子(立教大学文学部教授)

 

筆者注


なお、コロナの状況やそれに関する法案やルール、またあるいはウクライナを含む世界情勢については、日々情報が更新されます。この記事がアップされる頃には全く様子が変わっているということもあります。できるだけ正確に書いておくつもりではあるのですが、このエッセイ全般にわたり、現在の状況を書いたものではないことをご理解いただきたく思います。

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