ウィーン・飛ぶ教室///プロローグ:子連れでウィーンにやって来た

作成者:
日本標準

2021年8月中旬、日本ではコロナ禍で開催の賛否が問われた東京オリンピックが行われている時期に、私たち家族4人は、閑散とした成田国際空港からオーストリアの首都ウィーンへと飛び立ちました。私も夫も、職場から、1年間、海外で研究する機会を得ることができたからです。

オーストリアのことを少しご紹介しましょう。正式国名はオーストリア共和国、北海道よりやや大きいくらいの国土に、およそ900万人が暮らしています。首都ウィーンの人口はおよそ190万人です。言語はおもにドイツ語。

周りを、ドイツ、スイス、イタリア、スロベニア、スロヴァキア、ハンガリー、チェコに囲まれています。スロヴァキアの首都ブラチスラバまでは電車でおよそ1時間弱。そして、スロヴァキアの隣はウクライナです。

オーストリアは、モーツァルトやベートーベン、マーラーやブルックナーを輩出した音楽の都であることは広く知られているでしょう。秋以降であれば、毎日、オペラやクラシックコンサート、演劇を楽しむことができます。

クリムトやシーレなどの絵画でも有名です。また冬にはザルツブルクやチロルでスキーを楽しむことができます。ウィーン風カツレツやザッハートルテをご存じの方もいらっしゃるでしょう。街にはかつてのハプスブルク帝国御用達の店がとてもたくさんあります。

今回、ウィーンへ出発するまでには大変なことがたくさんありました。

コロナ禍を理由に業務を縮小している大使館での家族全員分の滞在ビザの煩雑極まりない手続き、わたしと夫のコロナワクチン接種、家族全員のマダニ脳炎ワクチンの接種(2回)、荷造り、オーストリア入国の際のPCR検査などなど。無事に出発できるか、大げさでなく出発の3日前までわかりませんでした。

しかし、このエッセイでは、わたしたちが無事にオーストリアに入国した後のウィーンでのさまざまな生活の模様を、毎回テーマを設定しながらお話ししたいと思っています。

私はドイツ語圏の教育を研究しているので、取り上げるテーマも学校や教育、あるいは子どもたちにかかわることが自然に多くなるでしょう。と同時に、このエッセイでは、論文に書くには証拠が不十分な、言い換えれば、私が見聞きして感じた人々の暮らしや街の雰囲気などの日常をお伝えできればと考えています。

最近では、古いものも含めて、多くの論文やデータはWeb上で公開され、その土地に行って資料収集をせずとも、論文を書くことはできます。

しかし、学校や教育、あるいはより広く社会というものは、論文やデータから見えてくるものだけではなく、そこに暮らす人々の生活や街の雰囲気に影響されている部分がとても大きいと思います。

人々が飲み食いし、散歩をしたり、笑ったり、怒ったりしながら話すことを、目で見て、耳で聴いて、オーストリアという国の教育やそれを支える文化を理解したいと思っています。

私は過去に2度、オーストリアに滞在したことがありますが、いずれも学生(留学生)としてでした。

今回、2人の子どもたちはそれぞれ現地の公立小学校(Volksschule)と幼稚園(Kindergarten)に通い、私は保護者としてもここで生活しています。そうすると、過去の滞在では見えてこなかったものが、見えてくるようになりました。

こうした経験もこのエッセイでたくさんご紹介します。またオーストリアだけでなく、コロナの状況によってではありますが、ドイツやフランスなどヨーロッパのほかの国々の様子もお伝えしたいと考えています。

もちろん、このたびのウクライナの戦争についてもお話ししなければならないと思っています。

戦争が始まってからすでに1か月がたちました。ウィーンの大きな駅にはウクライナから逃れてきた人々が毎日やってきます。子どもの学校にもすでにウクライナから転校生がやってきています。

街のいたるところで、ウクライナへの支援を求める看板や旗を見かけます。戦争反対のデモも行われています。

 

このエッセイのタイトルは、エーリッヒ・ケストナーの『飛ぶ教室』という本に影響を受けています。私の子どものころからの愛読書です。おそらく、この本によって私はドイツ語圏の学校というものに興味を持ったように思います。

『飛ぶ教室』は、寮生活を送るギムナジウム(第5学年以上の子どもが通う大学進学資格を取得できる中等教育学校)の子どもたちの様子を生き生きと描いた児童書です。

作中に作家志望の子どもが書いた脚本「飛ぶ教室」をもとに、仲良しグループがクリスマス会で演劇を披露するというシーンがあります。教室がベスビオ火山やエジプトのピラミッドや北極、果ては天国にまで飛んでいき、現地で「生きた」学習をするというお芝居です。

今回のウィーンの滞在を、わたしはこの「飛ぶ教室」のように過ごしてみたいと思っています。同乗者は、2人の子どもと夫です。無理やり乗車させたようで、少し気の毒にも思っています。

以降、ウィーンのドタバタ、飛ぶ教室をお楽しみいただければ幸いです。

 

伊藤実歩子(立教大学文学部教授)

 

筆者注


なお、コロナの状況やそれに関する法案やルール、またあるいはウクライナを含む世界情勢については、日々情報が更新されます。この記事がアップされる頃には全く様子が変わっているということもあります。できるだけ正確に書いておくつもりではあるのですが、このエッセイ全般にわたり、現在の状況を書いたものではないことをご理解いただきたく思います。

関連する教育情報

コメント

コメントがありません

人気のキーワード

人気特集ランキング