ウィーン・飛ぶ教室///第9回:デモする人々①―環境デモと幼稚園の先生デモ―

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日本標準

まだ日本にいるときのことになりますが、ヨーロッパの大学入試(こちらでは中等教育修了資格試験)の実態を調べていて、驚いたことがありました(伊藤実歩子編著『変動する大学入試――資格か選抜か ヨーロッパと日本』大修館書店、2020年)。

それは、入試改革(こちらでは中等教育修了資格試験ですが)のたびに、当事者である高校生たちが大規模なデモを実施し、自分たちの要求を政府に示す行動をとっているということでした。ドイツ、オーストリア、オランダ、フランス、イタリアなどヨーロッパの各国で見られる高校生の日常です。

またちょうど出版の前後に、グレタ・トゥーンベリによる気候変動デモ、いわゆる「未来のための金曜日デモ」が日本でも注目を集めていました。日本でも、2015年ごろにSEALDsなどが活発に活動を行い、若者たちによるデモが注目されたことを記憶されているかもしれません。

しかし、通常、現在の日本ではあまり見られないといってよいでしょう。少なくとも、私が日本で生まれて、暮らしていたなかで、時折見かけることはありましたが、デモはまったく身近なものではありませんでした。

ヨーロッパの人々はなぜデモをするのか。またそもそもデモとはどのようなものか。今回から2回に分けて、私がウィーンで目にした4つのデモについてお話ししたいと思います。

 

気候変動デモ――若者が参加する――

ある日、在オーストリア日本国大使館から1通のメールが来ました。ウィーンのヘルデンプラッツ(Heldenplatz)で大規模なデモが予定されているという連絡です。

歴史的な話をすれば、このヘルデンプラッツは、1938年にアドルフ・ヒットラーがナチス・ドイツによるオーストリア併合(アンシュルス)を宣言した場所としても知られています。現在、大規模なデモの多くはヘルデンプラッツが集合場所になっています。

2021年9月24日金曜日午後、私はこのデモを見に行ってみることにしました。

このデモは「未来のための金曜日デモ」で、ウィーンだけでなく、世界中で若者たちがデモをしました。国連総会2021の時期に重ねて、気候変動のために有効な手段を講じない大人たちに対して、世界中の若者たちがデモをしました。特に、グレタ・トゥーンベリがベルリンのデモに参加していた様子は世界中で報道されました。

午後3時を過ぎると、ヘルデンプラッツに続々と若者たちが集まってきます。太鼓やラッパを鳴らしながら。手作りのプラカードを持って。ヘルデンプラッツは、ウィーンの環状道路(通称、リングという)に面しているので、人々はリングをそれぞれに歩いてやってきます。その間、車両は通行止めです。

ノリのよい音楽が大音量で流され、それに合わせて踊る人々もいます。ヘルデンプラッツの広い芝生には多くの人が座って、話しています。天気の良い日だったので、少し夏フェスぽいノリもあります。

 

 

しばらくすると、ヘルデンプラッツに設営された小さな壇上では、代表者が演説を始めました。こうした場所に立つ代表者たちはもちろん熱心な活動家であるのですが、一方、そこに参加している人々は、まるで、学校の帰りに友達と誘い合って、何組かのカップルを含むグループで、子どもを学校に迎えに行って家族で、子連れの家族同士で参加しているようでした。

そうした日常の延長線上にデモがあり、参加する風景。少なくとも私にはそのように見えました。そして少し感傷的ではあるのですが、私が生まれて初めて見た大規模なデモのこの風景を、子どもたちに見せなければならないと思いました。

たくさんの子どもたちが大人に連れられてきていました。オーストリアの子どもたちはこうした風景を見ながら、デモがある日常を、デモをする日常を受け止めていくのだろうと思いました 。

注 ただし、ブレイディみかこが指摘しているように、こうした地球温暖化対策を訴えるデモに参加する/できるのは、スクールランキングが上位の優秀な学校や大学の若者たちに限られているということもできる。ブレイディみかこ『僕はイエローでホワイトで、ちょっとブルー』新潮社、2019年、pp.238-241。

 

幼稚園の教育環境改善デモ――幼稚園の先生たちが立ち上がる!――

別の日、子どもの通う幼稚園から一通のメールが来ました。2021年10月12日の午前中、幼稚園を休園するというお知らせでした。

ウィーン市内の幼稚園の教員やアシスタントたちが、幼稚園の教育環境や教員待遇の改善などを求めてデモを行うためだというのです。ちなみに、この休園に対して保護者からの苦情はありませんでした。

当初、集合場所はヘルデンプラッツでしたが、ちょうどそのころ、オーストリアは首相のスキャンダルで政局が混乱しており、ウィーン大学近くのジークムンド・フロイトパークが集会場所となりました。

幼稚園関係者たちは、スタッフと子どもの比率の改善(より小さなグループでの教育)、教育に十分な予算の確保、アシスタント教育の統一化などを要求していました。「教育にはもっと価値がある」「私は(子ども好きの)おばさんではない」「(このような労働・教育環境は)もうたくさんだ」「もっと予算を」「もっと給与を」というプラカードがたくさん掲げられ、シュプレヒコールが叫ばれました。

幼稚園デモの様子

 

このデモには、5000人もの幼稚園教員、アシスタントが集まりました。参加者を見ると、アジア系、アフリカ系を含む、多くの移民の人々が幼児教育に携わっていることがわかります。先の気候変動デモの参加者とは異なる重要なポイントです。

会場でハリセンをもらったので、私も子どもと一緒に鳴らしてみました。そして、壇上で代表者が「もっと予算を!」「教育には価値がある!」と叫び、参加者が同じように叫ぶので、わたしもそのあとについて試しに言ってみました。

気分がいい。もっと大きな声で叫んでみました。ハリセンを打ち鳴らしてみました。

子どもが保育園に入れないと言われ、途方に暮れた時のことを思い出しました。

もう一度叫んでみました。子どもが日本で通っていた保育園の先生と一緒にこれをやってみたいと思いました。

先の回でお話ししたように、ウィーンで幼稚園の数は全く足りていないと言われています。私たちは偶然にも家の近くに空きを見つけることができましたが、それは奇跡に近いことだと言われました。こうした状況は日本ととてもよく似ています。

モンテッソーリ教育を行うような人気の私立幼稚園は3年待ちだと言われています。つまり、こうしたところに入園させるには、子どもが生まれるとすぐにウェイティングリストに登録しなければならないわけです。キリスト教系の私立小学校の附属幼稚園も大変人気です。

幼稚園に通う子どもたちはコロナワクチンを打つことができませんので、保育者やスタッフは感染の危険性とともに毎日仕事をしています。コロナ禍での教員たちの負担増を考えると、これらの要求は本当に当然のことであるはずなのです。

子どもが通う幼稚園の園長は、後日、「これで少しは私たちの要求が政府に届くと信じているわ」と言いました。

それを聞いて、わたしのこれまでの生活に、自分の要求が政府に届くということを信じ、行動するということが全くなかったのだと思ったのでした。

 

伊藤実歩子(立教大学文学部教授)

 

筆者注


なお、コロナの状況やそれに関する法案やルール、またあるいはウクライナを含む世界情勢については、日々情報が更新されます。この記事がアップされる頃には全く様子が変わっているということもあります。できるだけ正確に書いておくつもりではあるのですが、このエッセイ全般にわたり、現在の状況を書いたものではないことをご理解いただきたく思います。

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